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阿蘇の草原の大木のもとを群れで歩く草原あか牛たち。国内の野草を活用した食料自給率向上と草原保全を両立する循環型畜産

草原を守るための
6つの実践モデル

私たちの考え方

阿蘇の未来へ、私たちが提案する畜産の「もう一つの選択肢」

私たちが行うのは、草原あか牛の「無畜舎・周年放牧肥育」です。牛舎を持たず、牛を1年中、野外で放牧することは日本の畜産の常識からすれば非常に珍しく、効率が悪く見えるかもしれません。

 

しかし、私たちがこの方法を選んだのは、畜産農家の方々が長年培ってきた方法(慣行農法)を否定するためではありません。日本の食卓を支え続けるその技術と努力には、深い敬意を抱いています。

私たちが目指しているのは、単なる畜産事業ではありません。

 

「年々減り続ける阿蘇の草原面積や、使われなくなった牧野の増加といった課題に対し、阿蘇の野草を牛の飼料として活用することで、“草原保全”と“持続可能な牛肉生産”を両立できるモデルを確立すること」を目指しています。

 

阿蘇の草原を守り、次世代にバトンをつなぐためにどうすればよいかをずっと考え、行動してきました。

当初、誰もが「無理だ」「無謀だ」と言ったこの活動を開始してから10年以上が経ちます。

 

しかし、未だ道半ばであり、毎日が実証実験の連続です。失敗も課題も山積みですが、ここで得られた知見はいずれ広く社会に公開することをお約束し、私たちが現在実践している6つの取り組みをご紹介します。

Model 01.

無畜舎・周年放牧

―「初期投資」という壁を壊す挑戦

私たちは、屋根のある牛舎を持っていません。あるのは軽トラック1台と草刈り機2台のみ。牛たちは1年中、雨の日も雪の日も、自然の中で過ごします。

 

なぜか。正直に言えば、活動当初、私たちには牛舎を建てる数百万円もの資金がなかったからです。

 

しかし、この「持たざる経営」こそが、これからの畜産の希望になると気づきました。

 

畜産を志す若者が経済的な理由で断念せざるを得ない、そんな話をよく耳にします。畜産を始めるには土地、牛舎、機械など数千万円単位の初期投資が必要なのです。

 

「親が農家でなければ畜産はできない」という経済的な参入障壁を取り払い、志ある若者が低投資で挑戦できるモデルを作れば、畜産の担い手も増やすことができます。牛舎がないから、牛も自分のペースで好きなように過ごすことも可能になります。

 

けれども、課題もあります。特に、放牧牛の栄養管理(エサ)は頭の痛い問題です。子牛・育成牛・繁殖牛・肥育牛の4種類別、かつ4つの季節別のエサの最適な組み合わせとその給餌量について現在、重点的に研究しています。

秋のすすきが揺れる阿蘇の草原を悠然と歩く草原あか牛5頭の後ろ姿。牛舎不要の周年放牧で新規就農の初期投資を抑える
阿蘇山の噴煙を背景に野草を食む草原あ��か牛。牛が草を食べ草原を短くすることで使われなくなった牧野を再生し野焼きの減災にも貢献

Model 02.

使われなくなった牧野での放牧

―未利用の土地を肉の生産に活用し、草原保全へ貢献

私たちは土地を所有していません。

 

阿蘇には、古くから地域で共同管理されてきた草原「牧野(ぼくや)」があります。私たちはその中から、高齢化や人手不足により使われなくなった土地でかつ、牛の放牧に適した草地を牧野組合の入牧許可を得てお借りしています。

 

土地を購入すれば莫大な資金が必要ですが、私たちは牧野組合の組合員の皆さんの理解と協力により、入牧料を支払うことで放牧する場所を確保しています。

 

これは、双方にメリットをもたらします。牧野組合は人手不足で管理が難しくなった土地を牛に「草刈り」してもらうことができ、私たちは初期投資を抑えて畜産を始められるからです。

 

牛が草を食べることで、春の野焼きの際の火勢が抑えられ、危険な作業の負担も軽減されます。

 

使われなくなってしまった土地を、価値ある生産の場へ。私たちは地域コミュニティとの共生によって、土地を守っていきたいと思っています。

Model 03.

大学や自治体との連携

―産学官連携で次世代の放牧畜産モデルを確立する

私たちの活動は、単独で行っている取り組みではありません。

 

2014年から東海大学農学部と連携し、牧野を研究フィールドとして提供しながら、牛や草原に関する研究に協力してきました。

 

現在も同大学の学生実習を受け入れるなど、密に連携しながら、草原あか牛の普及に努めています。

 

また、私たちは、東海大学発の草原あか牛ブランドの認証・普及・流通を担う団体です。

 

草原での飼育から、肉の専門家・新保吉伸氏による「手当て(熟成)」、そして腕利きのシェフの料理へつながっていく、草原あか牛独自のバリューチェーンを構築しています。

さらに、自治体とも連携して活動を行っています。2016年より「牧野を活用した牛の放牧推進に関する調査研究業務」を南小国町から受託。以降2022年度まで毎年、継続的に取り組んできました。

これらの連携を通じて得た知見は、いずれ広く社会へ公開します。私たちの試行錯誤が日本各地の草原保全と持続可能な畜産の一助になることを願っています。

東海大学農学部技師出身・服部理事が見学者に草原あか牛の飼育を解説。産学官連携で放牧畜産モデルを確立する
阿蘇の草原で自然分娩した子牛をなめる草原あか牛の母牛。親子放牧6か月で動物福��祉と省力化を両立する

Model 04.

自然分娩・親子放牧

―牛の生命力を信じ、人の労力を減らす

「牛ができることは、牛に任せる」。

 

これが私たちの飼育方針です。 通常は人の介助が必要な分娩も、逆子などの異常がない限り、私たちは手を貸しません。

 

自然の中を歩き回る母牛は安産傾向にあり、朝に見に行くと子牛が生まれていることも日常です。

 

また、生後すぐに親子を引き離さず、離乳までの約6ヶ月間は親子で放牧させます。

 

これは動物福祉(アニマルウェルフェア)の観点はもちろん、「省力化」という経営的な意味も持ちます。

 

夜通しの分娩監視や哺乳作業を減らすことで、過酷な労働環境を改善し、働く人にとっても持続可能な畜産のあり方を模索しています。

Model 05.

繁殖と肥育の一貫経営

―草を「肉」に変える責任と価値

通常、畜産は「子牛を育む農家(繁殖)」と「肉にする農家(肥育)」に分かれています。

 

しかし私たちは、生まれた子牛を最後まで育て、肉にして届ける一貫経営を行っています。

 

理由は、市場の評価軸(価格設定)にあります。現状の市場では、サシ(脂)の入り具合が重視されるため、草で育った赤身肉の価値は低く見積もられがちです。

 

だからこそ、私たちは自分たちの手で肥育し、「草原あか牛」というストーリーを丁寧に伝え、付加価値をつけてお客様に届ける必要があります。

 

繁殖と肥育、全く異なる2つの技術を確立するのは容易ではありません。特に放牧環境下での肥育技術は前例が少なく、手探りの状態です。

 

活動当初、「野草を使って放牧をしながら肥育をする」ことは、専門家をはじめとして誰もが「無理だ」「不可能だ」と言いました。

 

しかし、これが確立できれば、雑草とも呼べる野草を価値に変えることができる、と今も信じて工夫を続けています。

阿蘇の野草をほおばる草原あか牛2頭。繁殖から肥育まで一貫して野草で育てる持続可能な牛肉生産の現場
青々とした阿蘇の草原で母牛に寄り添う草原あか牛の子牛。阿蘇の風土が育�む放牧のパートナーとして共に生きる

Model 06.

あか牛という選択

―阿蘇の風土が育むパートナーと共に生きる

私たちが育てるのは、熊本で昔から飼われている「あか牛」です。

 

足腰が強く、性格が温厚なあか牛は、起伏の激しい阿蘇の草原での放牧に適しています。

 

実際にこの10年間で、放牧中の事故や怪我はわずか2頭。あか牛の強さに助けられています。

 

私たちは、あか牛を単なる家畜としてではなく、この土地の草原維持を担うパートナーとして捉えています。

 

私たちの「草原あか牛」は有名ブランド牛のような知名度はまだありません。

 

しかし、阿蘇の野草を食んで育つあか牛の価値を再定義することは、地域の宝を未来へ残すことと同義だと考えています。

青々とした阿蘇の草原にたたずむ草原あか牛。放牧が地下水・生物多様性・野焼き減災・食料自給率・担い手育成に貢献

私たちが貢献できること

この活動が解決に貢献できる5つの社会課題

01 地下水涵養(かんよう)

阿蘇の草原維持で河川流域約230万人の水がめを守る

02 野焼き支援と減災

牛が生きた「草刈り機」として安全な野焼きをサポート

03 食料自給率アップ

身近にある草を活用し、海外相場に左右されない食糧生産へ

04 生物多様性の保全

草原環境の維持が希少動植物の生態系を支える

05 次世代の担い手育成

2018年から累計4名の県外出身者の新規就農研修を実現

課題と展望

なぜ今、牛肉に「新しい評価軸」が必要なのか

「おいしさ」の多様性を求めて

現在、日本の牛肉市場では、霜降り(サシ)の入り具合や、脂の色が白く美しいことが高く評価されます。これは、長年の畜産農家の努力と技術によって確立された、和牛の芸術的なおいしさの基準によるものです。

一方で、私たちが育てている放牧の「草原あか牛」は、少し性質が異なります。

 

阿蘇の広大な草原を毎日歩き回り、野草を食べて育つ肉は、筋肉質で引き締まった「赤身」が中心です。また、草由来のカロテンにより、脂はクリーム色や黄色を帯びることがあります。

この「健康的な赤身」と「草の香りがする脂」は、A5ランクを頂点とする既存の格付け基準に当てはめると、どうしても低いランクの評価になってしまいます。市場流通においては、適正な価格がつきにくいのが現状です。

 

「市場で高く評価されないのに、なぜ続けるのか?」、 そう問われることもあります。

 

しかし私たちは、サシのおいしさがあるように、赤身にも噛みしめるほどに広がる旨みという、別軸の「おいしさ」があると信じています。この多様な価値を世の中に提案していくことが、私たちの使命だと考えています。

「放牧=低コスト」ではない現実

また、経営面でも大きな課題があります。「阿蘇の草原での放牧はエサ代がかからない」というイメージがあるかもしれません。

 

私たちも当初はそう思っていました。しかし、実際はそう単純ではありません。

 

毎日広い草原を動き回る牛たちは、基礎代謝が高く、体を維持するためにより多くのエネルギーを必要とします。いわば、毎日トレーニングをしているアスリートのようなもの。消費するエネルギーが多いので、たくさん食べるのは当然のことです。

 

特に、草原の草が枯れる冬場は、牛たちが痩せてしまわないよう、十分な量の乾牧草や栄養価の調整用飼料を購入して与える必要があります。将来的には、阿蘇地域内での飼料調達ネットワークの構築を視野に入れて活動しています。

 

市場評価とのギャップ、そして放牧特有の管理コスト。私たちの経営は決して楽なものではありません。むしろ、この新しい循環型の畜産モデルを確立するための「投資」と「実験」を、ギリギリのところで続けているのが正直なところです。

 

既存の流通ルートに乗せるだけでは、この活動を継続し、阿蘇の草原を守り続けることは困難です。

 

だからこそ、私たちは市場評価だけに頼るのではなく、「草原あか牛」の真の価値を理解し、協力してくれるパートナーと一緒に活動しています。

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